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東京地方裁判所 昭和48年(特わ)2138号 判決 1981年8月03日

右の者らに対する商標法違反、不正競争防止法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一、被告人田村伊助、同田村宗平をそれぞれ懲役一年六月に処する。

二、被告人株式会社盛光を罰金一〇〇万円に処する。

三、被告人田村宗平に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

四、訴訟費用は、その全部を被告人三名に平等して負担させる。

理由

<前略>

一弁護人は、被告会社が、公訴事実第一の期間内に使用した商標は、田中の有する登録商標甲一と同一性又は類似性がないと主張する。

判旨そこで検討すると、関係証拠によれば、右期間内において被告会社がその商品たる金切鋏に使用した商標は、主として別紙イ、口、ハ、ニのような内容をもつものと認められる。右商標のうち、ロはイ商標(盛光)の上に単に登録の文字を付加したもの、ハ、ニは右にいわゆるアサヒMのマーク(図形とローマ字のMを組み合わせた図柄)を付加したものである。

ところで、二個の商標が類似するか否かの判断は、両商標を全体的に対比し、その離隔的観察において、それぞれの外観、称呼、観念を相互に比較し、そのいずれか一つ以上の点で相紛らわしいため、両者の品質や出所につき誤認ないし混同を起こさせる程度に近似しているか否かを、一般需要者が商品購入時に通常払うであろう注意を基準として判定すべきものであるが、とくにある商標中に商品識別機能を有するとは認められないような付記ないし付飾的部分が存在する場合には、右の付記部分等を除いた部分を商標の要部として特定し、これを相互に比較する方法によるべきである。

右の観点からみると、右ロないしニの各商標のうち、登録の二字から成る部分はもちろん、右図柄の部分についても、これらがイ商標に付加される限りにおいては、独立に商品識別機能を有するほどの顕著性は持たないものと認められるから、右各商標は、いずれもイ商標の内容たる「盛光」の文字を要部とする同種の商標と認められる。

そこで、右各商標と別紙甲一の登録商標とを対比すると、イないしニの商標の要部からは、「モリミツ」という称呼を生ずる一方、登録商標甲一のうち〓という部分からいかなる称呼を生ずるかは、一般需要者の通常の判断能力を基準とする限り、必ずしも分明ではないのみならず、たとえ右部分から「カネヒサ」という称呼を生ずるとしても、右部分が、「盛光」の二字に冠されたものである限り、特に商品識別機能を持つほどの顕著性を持つとは認め難く、簡易迅速を旨とする商取引の実際においては、登録商標甲一の称呼としては単に「モリミツ」と略称されることが少なくないと考えられるから、右〓の部分は右商標の付記的部分というべく、その要部とはならないものと認められる。

そうすると、右イないしニの商標と登録商標甲一とは、それぞれの要部において称呼及び観念を共通にするからその余の点を判断するまでもなく、これらは少なくとも類似商標と認められる。

二次に弁護人は、右類似性が肯定されても、登録商標に類似する商標の使用行為は、商標法上固有の商標権侵害行為ではなく、同法三七条一号により商標権侵害とみなされているに過ぎないところ、同法七八条により処罰される商標権侵害行為にこれを含めることは、刑罰法規の厳格性に反し許されない旨主張する。

判旨そこで検討すると、なるほど、商標法七八条は、「商標権(中略)を侵害した者は、五年以下の懲役又は五〇万円以下の罰金に処する。」と規定するのみで、処罰対象たる侵害行為の内容を具体的に明示しておらず、反面、同法三七条一号において、指定商品についての登録商標に類似する商標の使用行為を商標権侵害とみなす旨規定しているため、右類似商標の使用は、同法七八条の侵害行為に含まれないと解する余地があるもののようである。

しかしながら、現行商標法は、旧商標法を全面的に改正して昭和三四年法律第一二七号として公布施行されたものであるところ、その制定の趣旨は、旧商標法について昭和二九年一一月特許庁の付属機関である工業所有権制度改正審議会が決定した「商標法改正に関する審議会答申案」を受けて、商標及びその使用の定義・範囲を明確化したこと、登録要件及び商標権存続期間の改正、譲渡制度・使用許諾制度及び防衛標章制度の新設等商標権の無体財産権としての地位を確保ないし強化し、商標権者の保護を強化することにあつたものと認められることに徴すると、現行法は、旧法が採用していた商標権保護のための商標権の周辺部分に対する禁止の範囲をとくに縮少する趣旨で立法されたものではないことは明らかである。

そして、旧商標法三四条一号は、「他人ノ登録商標ト(中略)類似ノ商標ヲ同一(中略)ノ商品ニ使用シタ行為」を刑事処罰の対象としていたものであつて、同条は、右のような類似商標の使用が、商標権本来の権利範囲ではないとしても、商標権を保護するための禁止範囲にあるものとして、これを侵害行為と同様刑事処罰の対象として明示する立法形式を採用していたものと解されるところ、現行商標法は、二五条において商標権の本来の権利範囲を指定商品について登録商標を使用することと定義した結果、旧法三四条各号に掲げられた行為のうち、類似商標の使用等登録商標保護のため周辺部分に及ぼすべき禁止の範囲を同法三七条において侵害とみなすという形式で統一したものであつて、それゆえ、同法七八条にいう商標権の侵害とは、同法三六条にいう侵害行為にとどまらず、同法三七条の規定により侵害とみなされる行為を含むものと解しなければならない。このように解することは、刑罰法規の合理的な当然解釈というべきものであるから所論は採用できない。

(小泉祐康 松澤智 井上弘通)

別紙 販売一覧表(一)、(二)、(三)<省略>

別紙 商標一覧表<甲二・A・B・C・D・E、乙・F・G、丙・H・ホ・ヘ――省略>

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